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2006年2月 7日 (火)

『氷壁』 井上靖

『氷壁』 井上靖 新潮文庫

 今、NHKで、この小説が原案の同名ドラマ、放送されていますが、それに惹かれて買ってしまいました。
ドラマの方は録画して、小説を読み終えてから面白そうだったら見てみようかな~、って気分で。

 …思えば、『御家人斬九郎』も『剣客商売』も、ドラマを見て、原作小説を読んだなあ。
『功名が辻』も、「ドラマ化!」と、地元が舞台だから昨年から前景気をあおるために平積みされていたものを手にとってしまったわけだし。
こんなパターンばかりだわ~。
でも、手を出せずにいたジャンルにとっつくには、いいきっかけかも知れません。

 しかし、この小説の舞台は、昭和三十年末から、三十一年にかけて。
なんか、ぴんと来なかったけど、「1956年」と書かれていて、「おー! 五十年前か~!」と感心してしまいました。
ドラマでは、現代に時代設定を移して、話の中身も大幅にアレンジされているようですが。
だって、ドラマの筋の紹介では裁判がどうこう云っているけど、原作小説の中では、そんなシーンは無かったし~。
多分、「自分の勤める会社の兄弟会社にけんかを売るような事態になる」「新聞で意見を表明する」あたりを、裁判沙汰に持ち込んでいるんだろうな~、と、手を加える方向として納得できます。

 で、昭和三十年ですが。
…なんか、この話を、「昭和四十年です」「五十年」と云われて目の前に出されても、余り違和感は無かったかも。
戦後、十年で、東京ってこれほどに復興しているイメージがなかなか沸かなくて。
でも、これが現実に、当時を生きていた人の感覚なんだろうな。
この作品が最初に本として刊行されたのは、昭和三十二年だというし。
主人公の勤める会社は、日本の会社が外国の広告媒体に広告を出す仲介の仕事をしている。
クリスマスはにぎやかに。
歓楽街で飲んでタクシーで帰るなんて、バブル期か?
私が幼い頃に見ていたテレビの中の大人の世界とさして違いはないとしか思えない。

 今から二十年前と現在と。
町並みを描写したらあれこれ様々に、違いが出てきそうです。
ビルの高さ。街を走る自動車の台数やそのデザイン。世相を語るものは、きっとかけ離れているだろう。
なのに、昭和の中盤の二十年は、情報を限定された小説の中では、それほどくっきりとした差がなさそうな気がしてしまうというのは、面白いです。と云うか、自分が、「昭和五十年」を大昔と感じているあたりが(笑)。
記憶もある年代なのに。
それを、「生まれて間もない頃」「生まれるずっと前」と、たいして変わりが無い気がしてしまうのは何故なんでしょう?
もちろん、ファッションやテレビ番組などの、流行したものや情報と云う点ではそれぞれの時代の特色は厳然とあるんでしょうが、この作品世界にはそういうものは関係していなかったから、余計に違いは埋没している気がする。

 それと、自分がほれ込んでいる、『京極堂シリーズ』。
あれって、昭和二十七年ごろからの話なんですよね。
『氷壁』の世界とは、ほんの二、三年しか違わない。
そして、同じ東京が舞台で。
なのに、なんでこんなに、世界が違うの~(笑)。
『氷壁』は、後十年後の話だといわれても受け入れられるのに。
『京極堂シリーズ』は、戦後の混乱期もようやく脱したはずなのに、ふと脇に目をやればそこここに闇がわだかまっているような不思議な年代で、絶対に昭和二十年代後半と云う時期を動かせない気がしてしまう。
で、この二作品の間の隔たりが、ほんの数年のはずが無いだろう…と思いつつも、それもまあ、あることなのかと納得もしてしまう、という妙な心もちになってしまいました。

 井上氏は「現在」として書かれ、京極氏は自分が誕生する十年以上前を、情報と想像で描いているんだから、当然、「『氷壁』が現実」だと軍配を上げるべきなんだろうけど。
でも、作品のテーマも違うし。
それぞれにその時代の現実を描いている…んだと思います。

 『氷壁』の感想があまり無い(笑)。
しょうがないよ、大どんでん返しもないし。
ああ、落ち着くところに落ち着いたなあ…ってとこでしょうか。面白かったですよ。読みごたえあったし。描写がすごいな~とうならされたし。ドラマも見ると思う。

 で、ここは思い切り、『氷壁』の中身から外れて。
主人公の親友の小坂氏。
…「『石津嵐版宇宙戦艦ヤマト』の「島大助(この字で正しいんです)」に似ている」と云って、理解していただける人が一体どれくらいいるんだろう(笑)。
ユキにアタックして玉砕した彼と通じるところがありますわ~。でもあの島くんは気の毒すぎ。

 あ。
この本を買ってきて、さあ読もうとしたら、本棚に昔古本屋で買ったのが、ほこりをかぶっているのを発見した時の「がちょ~ん」感は、共感してくださる人も多いのでは…?(笑)
だから、買った本はさっさと読まなければいけませんな。自戒、反省。…でも、懲りないだろう(笑)。

 この文を書き上げて、推敲して感じたとこ。
…いつもだったら使わないはずの言い回しがある。
読んだばかりの小説に影響されるのはいつものことだけど、今回見事すぎ(笑)。ちょっと直してしまった。

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